黒部の山賊

 

お盆の季節は山に行けない。多忙だからだ。こういう時は山の本を読むに限る。

登山を愛好する人が絶賛する「黒部の山賊」という本がある。以前は三俣山荘付近の山小屋にしか売っていなかった。

長い間古本屋でも手に入らなかったが、今年「山と渓谷社」から出版された。

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ネタバレは良く無いので(笑)買って読んでもらうとして、概略だけ述べておこう。

これは黒部川の源流部のお話。源流部とは、だいたい薬師岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、水晶岳に囲まれた地帯のことだ。

有名な雲ノ平、高天原などの高原もある。

筆者の伊藤正一氏は、ひょんなことから三俣山荘を購入することになったが、そこは山賊のうわさがあって、うかつには近寄れない場所であった…

今年5月に行って来た「寺地山」は、ちょうどその裏側にあるのだ。とにかくこれほど深い山は無かった。

(北ノ俣から太郎山に繋がる稜線)Exif_JPEG_PICTURE

森は深く、クマ、ニホンカモシカ、ウサギ、キツネ、タヌキなど、野生動物の宝庫。

もちろん、雷鳥も生息している。

比較的人間の手が入っておらず、その光景はまさに絶景だ。

(寺地山より薬師岳を望む)
Exif_JPEG_PICTURE

人間が居ない、というのは実に不安なことだ。もしも何かがあっても、だれも周りにいない。携帯電話が圏外であるのは言うまでもなく、周りに人工物は何一つ無い。あるのは登山道だけ。

(三俣蓮華岳方面)Exif_JPEG_PICTUREこんな深い山の中に「単独で」身を置く、というのはなかなか出来る経験ではない。今まで深い山は「単独」でしか登った事が無いから、かなり慣れてきてはいるものの、やはり怖い。

怖いなら、そんな辺鄙なところに行くことは無いではないか。どうしても行きたいならだれかと一緒に登れば良いではないか、という人もいるだろう。

しかしこういう地域に一緒に来てくれる人を探すことはなかなか出来ない。遭難の危険はもちろんあるし、だいいち「何でそんな人のいない所を登るのか」ということを理解してくれる人は稀だから。

たいていが「周りにたくさん人がいた方が、楽しいし、安全だ。ひとの沢山いる山の方がよい」と思い込んでいる。

しかし遭難する時は、まわりに沢山人が居ても遭難するのだ。

またグループになっていると、統率をとるのが難しい。一人が勝手なことを言い出すと、ややもすればそれが原因で遭難したりすることもあり得る。

だからわたしは一人で登る。そして「ああ、怖かった。今度はどうすれば怖くないか」ということを考えて、また一人で山に向かうのだ。

この「恐怖心」はとても大事な感覚で、必要な時にすぐに引き返す決断が出来る。

多人数の場合、どうしても無理しがちになる、と思うのだ。

やや、脱線してしまった。

「黒部の山賊」には「アルプスの怪」という副題がついている。

こういう深い山には、やはりいろいろと不思議なことが起こるらしいのだ。第一空気が薄いから、人間の脳はいろんなものを作り出すらしい。

ただし、現実に「巨大なクマ」が居たりすることがあったらしいから、そんな怪奇現象は幻覚だとか言って片付けることもできない。

危ない動物が、わたしの命を狙っていることを、本能が知らせてくれているのかも知れないから。

「黒部の山賊」には、そういう「大自然との命のやりとり」の事が書かれていると思う。

これを読んだ後、5月の登山のことを思い出してしまい、また行きたくなってしまった。命のやり取りをして、負ければ命を落とす事になるだろう。しかし、たとえそうなったとしても、この環境ならば良いではないか?。

今の人間は、安全圏の中で、少しでも命を長らえようと苦心しているが、命など100年も持たない。苦労して作り上げた「会社」も、「名誉」も「金」も、すべて命とともに、なくなってしまう。

無くなる、ということは、ほんとうに無くなる、ということだ。後にはなにも無くなる。

火葬場に入り、扉がゆっくり閉まる…それで終わりなのだ。

そういう事例を、わたしはどれだけ多く見てきたことだろう。だから、自分がたとえそうなったとしても、悲しむ必要があるだろうか?

そういう世界と、直に接することが出来るのが、山というところなのかもしれない。

もちろん、山で死ねば迷惑がかかるから、なるべく避けなければならないが。

しかしながら「魂の死」というのは有る。肉体はなるべく殺してはならないが、もし死んでしまったならばしかたがない。それはその時だ。なるべくそうならないようにしなければならないのは言うまでもない。

それはともかく、こういう大自然の中で「魂を殺して」しまうことは出来る。

大自然と、心が一体化してしまうのだ。

その後、登山者は「めんどうくさい」肉体を引きずって、また山を下りる…

魂は、山に置いてきたまま…

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